心理学連邦

テレンバッハと鬱病/鬱病と病前性格

鬱病

抑鬱を主訴とする気分障害で他に焦燥感、悲哀、睡眠障害、食欲減退など多くの症状が見られる。


鬱病の分類

日本でよく利用されているDSMやICDの診断基準では、基本的に原因を考慮せずに症状によって診断し、重症、中等、軽症などに細かく分類される。
重症の大鬱病(major depression)のみを指して鬱病と呼ばれることもある。

原因による分類は以下に記す通りである。

内因性鬱病

心因性鬱病(反応性、心理的なストレス)

身体因性鬱病(インフルエンザなど鬱病以外の病気や薬の影響)

神経症性鬱病(性格や思考による)


更に細かい分類では、荷おろし鬱病(schulte 1951)、根こそぎ鬱病(burger-prinz 1951)、喪失鬱病(lorenzer 1959)、引越しうつ病などがある。

その他、仮面鬱病、擬態鬱病など非常に多くの種類が存在する。


鬱病の原因

精神的負担を与える出来事に原因があるとされる心因性鬱病や性格に原因を求める神経症性鬱病などの考え方がある一方で、原因を想定する診断を避けて、DSMやICDのように専ら症状によって診断する場合もある。

心因性鬱病では、きっかけさえあれば誰でも鬱病に罹患するという見方もあるが、鬱病に罹患する素因を持っていることが条件とする場合もある。
これは、環境と素因の相互作用によって統合失調症を発症するという見方と共通する。

また、鬱病を脳の障害と考える見方もあるが、その場合でも問診に基づいて診断するという点では同じで、セロトニンやノルアドレナリンの不足を理由に鬱病と診断することは稀と考えられる(DSMやICDの診断基準に脳内物質は考慮されていない)。


鬱病の病前性格

<クレッチマーの循環気質>

クレッチマー(1921)によれば、循環気質は肥満型に多いとされる性格で、躁うつ病の病前性格とされる。
循環気質の人は、善良で社交的な時と、抑うつの状態を周期的に繰り返す。
クレッチマーは、性格と体型に関連があるとしている。
その意味では、クレッチマーの言う鬱病は身体因性であるが、具体的に体型(体質)と性格がどう関係があるのか不明な点が多いため、厳密には内因性(秘因性)と呼ぶべきである。


<メランコリー親和型(melancholic type)>

テレンバッハ(1961)による鬱病の病前性格、下記を参照


<下田光造の執着性格(immodithymia)>

下田光造は、几帳面、責任感が強い、凝り性の特徴を持つ性格を執着性格と呼び、躁うつ病の病前性格とした。


<ベックの否定的自動思考>

認知療法で知られるベックは、鬱病などの気分障害の原因として否定的な自動思考があると考えた。
また、ベックはベック抑うつ性尺度(Beck Depression Inventory BDI 1961)を考案した。
ベックによれば、 否定的な思考はその人の信念(スキーマ)から発生し、結果、自己否定や抑うつに陥るとしている。
たとえば、悪いことは過大評価して良いことは過小評価する、何でも完璧にやらねばならなくて、勝つか負けるかという極端な2分割思考などである (詳しくは別ページを参照 )。
ベックの言う鬱病は、ある出来事が起きて、それに付随するかたちで鬱病が発生すると捉えれば、心因性であるが、むしろ出来事の解釈の仕方に問題があると考えれば、神経症性の鬱病に近い。



メランコリー
H. テレンバッハ Hubertus Tellenbach 木村 敏
4622021935

        5/5点中

古代ギリシャの時代から続くメランコリーの概念の歴史、病因論、メランコリー者の類型、治療方法など鬱病、躁鬱病研究に関する研究が紹介されている。

メランコリーの歴史

ヒポクラテス、プラトン、アリストテレスの3者のメランコリーに関する研究を比較している、微妙な違いがあるがこの時代においては総じてメランコリーは体質との関連が強く、中庸の欠如から生じるとしていることがわかる。
天才と狂気についてはプラトンとテオフラストス、アリストテレスの研究を比べてその違いについて論じている、いずれも中庸からの逸脱が天才と関連するものであるとしている。

病因

内因性(エンドン)に関する考察が多くみられる、内因性というのは心因性、身体因性に続く第3の原因野であり外因性と対比させられる。
しかしテレンバッハによれば、内因性は非因性と呼ぶべきもので明確な定義を与えられていない事を指摘している。
またテレンバッハの病因に対する考え方はそれぞれの原因野が相互に影響する相即的なものであるから各原因野を区切るような捉え方は退けられる。


リズム性

リズム性は内因性とも関連があり、動植物は環境に適応するためのリズムを持っている、例えば植物であれば日光によって一定のリズムを獲得する。
自然だけでなく社会に適応する際にもリズム性がみられる(午前8時から午後5時まで働き日曜日は休む等)。
リズム性が障害された時、気分障害の患者は睡眠や性的活動の異常が起こる、テレンバッハはこのようなリズム性は能動的に獲得されるものとしている。

メランコリー親和型(病前性格)

秩序と規則性を好み序列が尊重される、非常に勤勉、良心的で対人関係においては他者に尽くす(尽力的顧慮)傾向がある。

自らメランコリーを生み出しがちな性格であり、この事は良心的であるために罪責感を持ちやすいとか高い要求水準のために十分に仕事が出来ていないという後ろめたさに示される。

この本を読む限りでは、テレンバッハはメランコリー親和型の人がすべて鬱病になるとしているわけではないし、精神分析のように症状に合目的性を認めているわけでもない。

しかしながら、内因性鬱病の患者の性格的特長や患者を取り巻く環境を考察したことが、結果的に内因性と心因性、神経症性の鬱病の混同を招く結果となった感は否めないだろう。

封入性(インクルデンツ)メランコリーと負目性(レマネンツ)メランコリー

メランコリーの仕組みを空間的に捉えたものが封入性メランコリー、時間的にとらえたものを負目性メランコリーという。
封入性メランコリーはメランコリー者が秩序が乱される事を避けるために自分自身が持つ秩序の中に閉じ込められてしまう事である。
これによって絶えず変化する環境との折り合いが付けられなくなり、メランコリーへと陥っていく、転居や学校を卒業したり入学する時にこのようなメランコリーがみられる。

負目性メランコリーは時間的に遅れをとっているという負目の事である。
これはやるべき仕事を十分に出来なかったとかあるべき状態でないという負目として現れる、仕事や道徳的な事など量と質どちらにも関連する。

臨床例

メランコリーの病名でハイデルベルク大学に入院した119名の例が紹介されている、主婦が多く(82名)裁縫業、事務職など下層中産階級が多い。

調査はメランコリーに圧倒されていない寛解後に行われた。

転居や退職によって秩序が乱れる事がきっかけとなりメランコリーに陥る例が多く、メランコリーが強いほど過去の過ちを後悔し、時に妄想を含む。

対人関係においては尽力的顧慮により他者との境界が曖昧となる、仕事中に自分の部下が叱られているのを見て自分までもが叱られているように感じるという例がある。

調査の対象となった119名だけで鬱病の患者の全体を語ることは難しいが、量よりも質の調査であるということも出来る。

 まとめ

精神分析のような先入見を持たずに、実存主義的な立場からメランコリーに陥った人がどのような世界を体験しているのかについて、観察したことをそのまま淡々と記述している点が特徴的である。

鬱病の患者の器質的な変化については、ノルアドレナリンやセロトニンの不足などが知られているが、上で述べたような症状についての予備知識の無い者が、器質的な変化を示す所見を見ても、実際にどのような症状が発生しているか分かるはずがないし、一部の患者でそのような変化が見られるとはいえ、診断する際には、本人や家族などが訴える症状を重視して判断を下すのが実情である。

このような事情も考慮すれば、これらの研究が単に鬱病の症状を列挙したという事以上の意味を持つことは明らかである。

この本で紹介されている症状や、病前性格がすべての人に当てはまるかという事よりも、患者が体験した事をそのまま理解するというアプローチの仕方に注目するべきであるし、その点において価値のある著作なのだという事ができる。

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