心理学連邦

認知行動療法/論理療法とEMDR

学習理論に基づく治療法を行動療法という。
特に神経症や恐怖症の治療として行われる。

認知も一種の学習や行動であるという考え方や、単純な刺激ー反応という枠組みだけでは、問題行動の解釈や改善がうまくいかないという事情から個人の認知も取り扱うエリスやベックの技法なども含めて認知行動療法と総称される。

行動療法の中には、ウォルピの逆制止法、エリスの論理療法、ベックの認知療法などがあり、非常に多くの種類が存在する。

行動療法の一種である暴露法は、症状を生じさせる刺激に直面する事で治療をはかる技法で、直接にあるいはイメージによって行われ、強い刺激から始めるにせよ弱い刺激から始めるにせよ行動療法の多くは暴露法の側面を持つ。


行動療法の歴史

行動療法は行動主義心理学 の影響を受けながら、精神分析に対抗するようにして、はじめ米英で広まり、後に日本でも定着した。

スキナーとリンズレイらの「行動療法の研究報告書」(1959)ではじめて行動療法という言葉が使われた。

また、アイゼンクにより行動療法の立場から精神分析に対する批判が行われた(精神分析に別れを告げよう1986)。

行動療法の土台となった研究では、さらに古く、ワトソンによる恐怖反応の実験(1920)、パブロフの条件反射(1902)にまで遡る。

1960年以降は、認知行動療法が広まりはじめ、新行動主義心理学 エリス、ベックなどの認知療法、ゲシュタルト心理学など様々な分野からの影響が見られる。


系統的脱感作(逆制止法)


ウォルピの提唱による治療法で、不安が引き起こされる場面で、それとは正反対のリラックス(リラクゼーション法)や賞賛などの反応を意図的に生じさせて行う治療法。

例えば、電車内でパニック発作を経験した人は、電車に乗る事が困難になることがある。
これを行動療法では、閉所や多数の人間がいる場所では症状が表れるという学習が行われたと考える。

この症状を消失させるためには、先ずリラックスの状態に入り、ラッシュ時の混雑した映像を見る、混雑する時間帯を避け電車に乗るなど、不安や恐怖が起きにくい簡単な課題から行う。

すると徐々に、不安が引き起こされるはずの場面でもリラックスができることを学習(条件反射の消去)し症状が改善される。




弱い刺激からではなく、症状が引き起こされる最も強い刺激に晒すことで行われる治療法。
フラッディングは患者が不安を感じていても、実際にはそれが起こりにくい事態であることを学習させるために行われ、提示される刺激は条件刺激(本来は不安などの症状が起きない刺激)である。
例えば、犬に噛まれて軽症を負った人がいるとすれば、その人はまた犬に噛まれるのではないかと考え、犬を避けるようになる。
しかし、そのような経験をする確立は低く、同じ人物が二度も同様の事態に遭遇する可能性は更に低いと考えられる。
実際に犬と触れ合うという最も強い刺激に晒され、問題が起きなければ、不安から犬を避けるという症状が改善される。


<条件刺激と無条件刺激>


注意すべきなのは、犬という刺激が、犬に噛まれた人だけが特別な反応を引き起こす条件刺激という点である。
したがって、体罰や暴言などの無条件刺激を用いる場合は、フラッディングではない。
無条件刺激によって、怒りを喚起することで不安を解消する場合があるとするなら、それは寧ろ、逆制止法に近い。


<効果が期待できない場合>


フラッディングは恐怖の対象や原因がはっきりしている場合に有効であり、不安や恐怖の原因が不明な場合は不適当な技法ともいえる。
例えば、統合失調症の注察妄想 は、なぜそのような妄想が起きるか不明であるためにフラッディングは有効ではない。
ただし、フラッディングの仕組みを学習理論で説明せずに、単なる慣れとか、長時間、不安を感じることができないために効果を発揮するとしている場合もある。

その場合は治療対象はもっと広いといえるが、妄想の症状がある場合は、薬物療法が併用されていることが多いので、実際のところ妄想にどれくらいの効果があるかはよくわからない。

当然のことながら、薬物療法の効果と認知行動療法の効果、どちらが功を奏しているのか、分かりにくいというのはフラッディングに限ったことではないし、鬱病や統合失調症に代表される内因性の精神障害に認知行動療法が有効かについては意見の分かれるところである。


モデリング療法


症状が表れる場面で、自分以外の人間が問題なく適応している様子を観察することで症状を消失させる技法。
モデリングはバンデューラの研究によるもので、観察する方法は直接でもテレビなどの間接的なものでもよいとされる。
モデリングは4つの段階に分けられる。
「注意過程」ではモデルの行動の利点などに注目し、「保持過程」ではモデルの情報を記憶して心のなかでリハーサルを行う。
「運動再生過程」ではモデルの行動を実行に移し、自己観察などをおこなう。
「動機づけ過程」では自分の行動が利益と不利益どちらを生じさせるかなどを吟味し、行動を持続させたり抑制させたりする。




EMDRは眼球運動による脱感作と再処理法のことで、米国のシャピロによって1989年に発表された行動療法の技法である。
患者は不安や恐怖を引き起こす場面を思い浮かべながら、治療者が眼前で動かす指を目で追うことで症状を改善させる。
PTSDなどの治療に効果があるとされる。


<EMDRの具体的な方法>


患者自身が最も辛いと感じられる場面での否定的な認知を明らかにした上で、目標とすべき好ましい認知が現段階でどれくらい確信できるかを10段階の評価(VOC Validity of Cognition)で答える。
その辛い場面における否定的な考えを思い浮かべて、そのときの感情がどのようなものであるか、また、その感情の強さを10段階のSUD(主観的障害単位)で答える。
辛い場面の映像、否定的な認知、そのときに発生する身体感覚をよく意識しながら患者の目の前で動かされる治療者の指を目で追う。
このとき治療者は患者の眼前30センチから50センチで、指を左右に1秒間で1から2往復で振る。
20から30往復を1セットとして行う。
眼球運動が終了して、新たなイメージが浮かんだ場合はそれを話す。
再度、はじめに思い浮かべた場面におけるSUDを問い、SUDの値が低くなってきたら、今度は好ましい認知を思い浮かべながら眼球運動を行い、好ましい認知のVOCの値が高くなるまで繰り返す。


<EMDRのメカニズム>


EMDRが効果を発揮するメカニズムについては、眼球運動によって不安や恐怖を感じることを妨げるためとか、心的外傷となった記憶に肯定的な認知をする過程を速めるためであるとされる。
上述した通り、EMDRは認知療法を併用したものであり、それと眼球運動を組み合わせることにより通常の認知療法よりも短い期間で効果を発揮すると考えられる。
一般的にEMDRは行動療法の中でも短期間で効果が出るとされるが、専らPTSDの治療という、統合失調症や鬱病などの内因性の精神障害が想定されない場面で用いられてきたことに留意すべきだろう。
EMDRは比較的新しい技法であるため、まだ多くの研究結果が出されるという段階には至っていない。

関連用語- TFT(思考場療法)

(参考文献-EMDR、系統的脱感作)「認知行動療法の理論と実際」


認知行動療法の理論と実際
岩本 隆茂 坂野 雄二 大野 裕
4563056111


認知の歪みを合理的なものに修正することで症状の改善をはかる治療法。
特にベックの用いた技法を指すが、論理療法のエリス、自己教示訓練のマイケンバウムが代表格とされる。
エリスの論理療法と似ているが、論理療法ほどには指示的でない。
ベックの認知療法はエリスと同様に、認知は個人の主観によって形成される面が多いと考える。
ベックはエリスのいうBelief(信念)に当たる概念をさらに細かく分類している。
スキーマ (schema)は信念の土台となるもので、スキーマから自動思考(automatic thoughts)が生まれる。
さらに自動思考における歪んだ認知をベックは以下のように分類した。

1拡大と縮小

悪いことを過大評価して良いことを過小評価する。


2二分割思考(dichotomous thinking)

0点か100点かそのどちらかであり、中間は存在しないという考え方。


3過度の一般化(overgeneralization)

Aさんに嫌われてしまったのだから、BさんもCさんも私のことを嫌ってるに違いないという、個別の事情を全体に適用する考え方。


4情緒的意味づけ(情緒的推論 emotional reasoning)

Aさんは私をこんなに悲しませたのだから、悪意があってやったのに違いないという、情緒を論証の拠り所とする考え。


5個人への関連付け(personalization)

何でも自分に関係するものとして捉える。


認知療法の手順

否定的な思考、感情やその程度とそれの元になっているスキーマを明らかにして、より望ましい対処法を考えてそれを実践する。
これらの経過を日記帳などの表に記述する。


アルバート・エリスが考案した治療法で、必要以上に自分を責めたり、物事を否定的に捉える考え方の歪みを現実に即したものへと変える広義の認知療法の一種であり、クライアントの誤った信念を論破するということから指示的心理療法に分類される。
1958年当初はrational psychotherapyと呼ばれていたが、その後Rational Emotive Therapy、Rational Emotive Behavior Therapy(REBT)と改称された。
日本語では論理療法、論理情動療法と呼ばれる。
論理療法では認知や行動が起きる仕組みをABCシェマ、若しくはABCDE理論という概念を用いて説明する。
A Activating event(行動や認知の原因となる出来事)→B Belief(信念)→C Consequence(結果)→D Dispute(論駁、論破)→E Effective(効果)

非合理的信念(irrational belief)と合理的信念(rational belief)

論理療法では出来事そのものではなく、信念がその人に特有の認知を生み出させると考える。
論理療法では、非合理的な信念を変えることで、不適応的な結果を改善させることが目標となる。

クライアントの偏った信念は、大まかに、誤った推論と極端な感情に分けられる(誤った推論に付随して極端な感情が起きるともいえる)。


1誤った推論 「自分は受験に失敗したのだから、この先何をやっても失敗ばかりするだろう」

2極端な感情 「受験に失敗した自分は本当にダメな人間だ、生きている価値などない」


これらの非合理的な信念を治療者は、感情に訴えることなく論理的にDispute(論駁、論破)する。

1は「XはYである。故にYはXである」と表現される後件肯定の虚偽という詭弁の一種である。
つまり、自分(X)は受験に失敗(Y)したのだから、失敗ばかりする人(Y)と自分(X)は同じであるという考え方である。

そこで治療者は、実際には受験に失敗した人でも社会的に成功をおさめている人は存在することを指摘する。

2は受験に失敗したことは良いことではないけれど、だから生きている価値が無いとするのは極端だと指摘する。
ただし、論理療法はあくまでもクライアントを言い負かすために行うのではくて、正しい認知が出来るように手助けするのだという点に留意すべきだろう。


論理療法の適応症

いわゆる神経症に効果を発揮するようである。
非合理的な信念とされるものが、訂正可能でなければ当然のことながら効果が期待できない治療法である。
したがって、統合失調症の妄想や、人格障害などには効果的とはいい難い。
また、一見すると非合理に思える信念でも、その成り立ちを考慮すれば、そう思っても仕方が無いという場合も効果的ではないように思える。
たとえば、PTSDの症状としての恐怖や無力感、犯罪や虐待のために人間不信に陥ることは、必ずしも合理的ではないが、決して不自然な反応とはいえないのである。


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