心理学連邦

妄想の種類/カプグラ症候群とフレゴリの錯覚

妄想とは

妄想は第三者から見て、受け入れ難く、現実とはかけ離れた、訂正不能な確信のことである。

身体(専ら脳の異常)や精神に異常があることを想定する場合が多く、念慮、疑惑、早合点、騙し絵を見たときに生じる錯覚、空想(ファンタジー)、迷信などは含まない。

薬物中毒、高熱、統合失調症に代表される精神障害に見られ、妄想が発生している最中は病識が無いが、訂正が容易な場合も妄想と呼ばれることがある。

しかし、上述の通りそれらは、本来別の用語で表現されるべきものである。

自分を良く見せたり、自分を過大評価するかたちの妄想。

以下は誇大妄想に関連する妄想。


血統妄想

自分が皇族や貴族などの高貴な血筋を引いていると信じる妄想。


宗教妄想

宗教的な色彩を持つ妄想で、自分はキリストの生まれ変わりだとか、預言者であるという妄想。


発明妄想

自分が偉大な発明をしたと信じる妄想。


憑依妄想

動物、霊などが自分に憑依するという妄想。


変身妄想

別の何かに変身してしまうという妄想。
動物に変身するという妄想は、けだもの妄想(zoanthropy)という。


恋愛妄想

ある人物が自分に対して好意を持っているとか、恋愛関係にあるという妄想。
相手が自分に好意を寄せているという確信は、被愛妄想(エロトマニア、エロトマニー、erotomania)という。
身近な人物が対象になったり、有名人が対象になることもある。

統合失調症でも見られる症状だが、パラノイアなどの人格障害圏の人にも見られる。

自分が誰かに攻撃されているという妄想。
統合失調症に多く見られる症状。

以下は被害妄想に関連する妄想。


関係妄想と関係念慮 見知らぬ人の会話や遠い国で起こった事件など実際には自分と全く関係の無い事を自分に関係がある事だと確信する事を関係妄想という。

確信ではなくそのような疑いを持っている場合は関係念慮として区別する。


注察妄想

誰かにじっと見られている、監視されているという妄想。

視線恐怖と似ているが、視線恐怖の場合は病識があり、自分でも過剰に視線を気にするのはおかしいと認識している。
したがって、視線恐怖は強迫観念に近い。

また、視線恐怖の場合は、原因やきっかけが視線恐怖を説明するのに、了解可能である場合が多い。
例えば、いじめをきっかけにして人間不信に陥るとか、劣等感などである。

一方、注察妄想は原因が不明で、病識が無く、訂正不能な確信である。

現実に存在する人間が対象となるだけでなく、誰もいなくてもそのような視線を感じるということもある。
追跡妄想と類似する。


追跡妄想

誰かに追跡されているという妄想。
警察に尾行されているとか、暴力団に追われている等。


被毒妄想

食べ物に毒が入っているという妄想。


嫉妬妄想

配偶者や恋人が、不貞を行っていると信じる妄想。
嫉妬妄想は、統合失調症や、認知症、それ以外では、パラノイアなどの人格障害で発生する。


好訴妄想

客観的に見れば、不利益を被っていないのに、特に法的な権利を侵害されたと信じる妄想。
単なる被害妄想とは違い、自分の権利を主張して、時には法的な手段に訴えることが特徴。

好訴妄想はパラノイアに見られる症状である。


被支配妄想

自分の思考、感情、行動などが誰かに支配され、操られているという妄想。
統合失調症に多く見られる妄想で、この妄想による体験をさせられ体験という。

これに関連する症状に、考えが吹き込まれるという「思考吹入」、自分の考えが他人に読み取られるという「考想伝播(思考伝播)」がある。


自分を実際よりも過小評価する妄想。
微小妄想には貧困妄想、罪業妄想などが含まれ、いずれも鬱病に見られる症状である。

以下は微小妄想に関連する妄想。


貧困妄想

自分が実際よりも貧しいと信じること。
鬱病患者に散見する症状で、極端な自責の念が関係していると推測できる。


心気妄想

病気になったと信じる妄想。
実際に症状が発生する心身症とは区別される。


罪業妄想(加害妄想)

鬱病の人に見られる妄想で、自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったと信じる妄想。


幻覚や記憶障害との違い

妄想は思考による誤った確信であり、幻覚は聴覚や視覚などに生じる誤った知覚である。

幻覚と妄想は本来は区別されるものだが、当事者に生じている知覚を第三者が体験することはできないために幻覚と妄想を区別することは難しい場合もある。

たとえば、幻聴が原因で、悪口を言われているという妄想が生じるのか、幻聴自体が妄想であるのかは、本当のところは本人にしかわからないはずである。

しかし、貧困妄想や恋愛妄想は、その確信の対象となっているものが、外部に存在するためにそれが事実誤認であり、幻覚ではないということが確認できる。


また、妄想であると判断するには、失見当識とは違い、単に現実を正しく理解できないというだけでなく、本人にとってはある種のストーリー性をもったものでなければならない。
しかしながら、認知の障害を補完する作話を妄想に含めるような見方もある。
ただし、その場合は統合失調症の被害妄想と比べると、より限定された場面で起きる。

さらに、妄想との区別を難しくさせるものは、記憶の障害である。

後述のカプグラ症候群のように、それがストーリー性を持った妄想なのか、純粋に記憶の障害による失見当識なのかよくわからない症状もある。


妄想と似ている思考

妄想であるかの判断に、それをどの程度の確信をもって信じているかという問題がある。
それが訂正可能であったり、病識があるなら、単なる思い込みとか、心配性、強迫観念と呼ばれる。

しかし、妄想を判定する客観的な基準が無いために、観察者の能力に左右される感は否めない。


カプグラ症候群(ソジーの錯覚)、替え玉妄想

家族などの自分にとって重要な人物が、姿は同じなのに別人のように思える症状。
相貌失認とは違って、カプグラ症候群では人間の顔自体は認識できるが、親しい人物に対して抱くはずの感情が想起されない(逆に相貌失認では、顔に付随する親しみなどの情動を認識できる)。

そのために患者は、ある人物の姿がそっくりではあるが、中身が入れ替わっているという奇妙な感覚を覚える。
人間に対してだけでなく、住み慣れた家や道具に対しても同様の症状を訴えることがある。
頭部外傷やてんかん、認知症などの脳の病気で生じる場合があるが、統合失調症でも見られる。
ジョセフ・カプグラ医師の名に因む。


フレゴリの錯覚(フレゴリ症候群)

全くの別人を自分にとって既知の人物と混同する症状をフレゴリの錯覚という。
既知の存在を認知できないカプグラ症候群とは対照を成す症状である。

一人の人物が姿を変えて、多数の人間になりすましているとか、テレビに映っている他人を自分であると感じたり、普段、仕事で使う会議場と病院を混同するなど多彩な症状が見られる。
見知らぬ場所を既知の場所と混同する場合は、「環境の重複錯誤」とよばれる。

英国の神経科医ヒューリングス・ジャクソン(John Hughlings Jackson)によると、脳が混乱状態になると、脳は複雑な思考を避けて、単純な思考を行う傾向があるとしている。
これを裏付けるように、脳髄膜炎によって脳全体に障害が生じた事例や腫瘍によって前頭葉が圧迫された患者の事例では、「環境の重複錯誤」が見られた。
これは、フレゴリの錯覚の原因を示唆するものであるが、なぜ、まともな見当識を保っているのにフレゴリの錯覚だけが生じるのかという点と具体的に脳のどの部分がフレゴリの錯覚の原因となっているのかについては、やはり不明である。

尚、フレゴリの錯覚は変装が得意なイタリアの俳優レオポルド・フレゴリに由来する。

<カプグラ症候群とフレゴリの錯覚の原因>

原因としては、情動を伴う記憶とそうではない記憶を脳の別の部位で記憶しており、それぞれの記憶の統合がうまくかないために生じるとする説がある。
エリスとヤングによれば、右脳と辺縁系をつなぐ背側ルートに損傷が起きると、顔に付随する感情を認識できなくなるとしている。

他方では、単に「情動認識」の過活動によって、フレゴリの錯覚が生じるという事例もあるようである。
その場合はドーパミン遮断薬によってある程度は改善する。

また、統合失調症の場合にもカプグラ症候群の症状が見られるし、子供が自分の劣等感を補償するために、自分は実は養子であって、本当の親は別にいて、自分はもっと高貴な血を引いているという空想を抱くこともある(フロイトは家族空想神経症という言葉を使っている)。

当然、これらの場合は頭部外傷や脳腫瘍の患者のような顕著な脳の異常は見られないのである。
具体的な診断基準を作らない限りは、それぞれが本当に同じ現象であるのかはよく分からない。


(参考文献ーカプグラ症候群、フレゴリの錯覚)
自我が揺らぐとき―脳はいかにして自己を創りだすのか
トッド・E. ファインバーグ Todd E. Feinberg 吉田 利子
400005449X
ビジュアル版 脳と心の地形図―思考・感情・意識の深淵に向かって
リタ カーター Rita Carter 藤井 留美
4562032707

思考化声(考想化声)

自分の考えが、実際には声に出していないのに、声として聞こえる症状。
当然ながら、実際に声が知覚されている場合は幻覚である。


妄想追想

過去の出来事に事実とは異なる解釈を与えたり、存在しない記憶を追想すること。

完全に訂正不能であるなら妄想だが、当惑作話や虚言癖とは区別されなければならない。

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