心理学連邦

本能と衝動

狭義の本能は一般的に生得的、非理性的で、且つ生命維持や種の保存のための行動をいう。
広義にはその行動に駆り立てる欲求、衝動を含む。
特に人間においては強い衝動を伴うものを指すが、下等生物の場合は単に生得的な行動を指すことが多い。
心理学における本能に関しても定義がはっきりしないだけでなく、日常会話でもこれらの言葉が使われるため非常に多義的な用語となっている。
特に欲求、要求、動機、動因、学習によって獲得された行動や反射は、本能と似ていて違いが分かりにくい。
次に心理学における本能や衝動について述べる。

マクドゥーガルは20世紀初頭に本能説を主張し、社会心理学に大きな影響を与えた。
マクドゥーガルによれば、人間の行動の原因は学習よりも本能が先立つとして、本能は遺伝的、生得的なものであるとした。 しかし、ある行動に対応する本能を同定していくと、行動の数だけ本能の種類も増やしていかなければならず、単なる同義語反復(トートロジー)に陥ってしまうのではないかと批判された。

マズローは人間の欲求を五段階の階層に分けて説明した。
マズローによれば高次の欲求は自己実現の欲求であり、自分の能力を発揮し、受容的で創造的でありたいとか、深い対人関係などを志向するとしている。
一方で最も低次な欲求は生理的欲求と呼ばれ、食欲、睡眠欲、呼吸など生命維持に欠かせない行為が含まれているとされる。
生理的欲求よりも高次の欲求に安全に対する欲求、親和(所属)の欲求、自尊(自我)の欲求がある。
これら4つの欲求は欠乏欲求とよばれる。
動機や欲求という言葉自体が定義がはっきりしないのだが、仮に目的やある行為を行う理由を指すなら上で述べた狭義の本能の定義とは明らかに違う。
マズローのいう欠乏欲求は高次になるにつれて、目的や原因を自覚した欲求が多く含まれるようになる。
例えば、呼吸という行為は生命維持に必要な行為であると知ってから行われるわけではないが、安全に対する欲求や親和の欲求では、どういう状況が危険であるか、安全であるか、どの集団に属するべきなのかというのはある程度までは意識的な判断のもとに行われているといえるだろう。
従ってマズローは本能を高次の欲求や動機と異質のものとは考えずに、同根のもの、ないしはそれぞれが延長線上にあるものとして捉えていたと考えられる。

マスローの人間論―未来に贈る人間主義心理学者のエッセイ
エドワード ホフマン Edward Hoffman 上田 吉一
4888486948

ジェームズは本能を「その目的を先見することなく一定の目的を達成するように行為する傾向」心理用語の基礎知識 有斐閣ブックスp16より引用)と定義した。
ジェームズは本能の種類は模倣、競争心、同情などがあるとした。
しかし、行動主義心理学で知られるジョン・ワトソンは目的達成のための複雑な行動は学習によって獲得されるとして、ジェームズの定義を批判した。
また、動物心理学者のZ・Y・クオはネズミを捕獲しようとしない猫を育てて本能の存在を否定した。

ティンベルヘンは生理的解発機構という神経機構を仮定し、そこに特定のホルモンなどの信号刺激が加われば、生命維持や種の保存のための一定の行動が自動的に引き起こされるとした。
ティンベルヘンは本能と学習の関連についても述べていて、学習の結果、信号刺激によって自動的な行動パターンが引き起こされるための閾値が変化すると考えた。

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