心理学連邦

向精神薬の副作用は問題視されにくい

向精神薬(抗精神病薬を含む中枢神経系に作用する薬の総称)は適切に処方すれば効果がある反面、後述の通り、様々な副作用が起きるが、必ずしも適切に対処してもらえるわけではない。
理由は以下の3つが指摘できる。

1抗精神病薬が患者を大人しくさせるための道具に使われている。
2錐体外路症状など副作用と精神病の症状の区別が難しい。
3利益優先の過剰投薬。

1については精神障害者に限らず発達障害児に対する過剰投薬も含めて最近よく議論の対象となる問題である。
精神障害者に対する向精神薬の投薬については、自傷他害を防ぐ目的で投薬されることがある一方で患者をコントロールするために投薬される側面もあることに注意しなければいけない。

薬によって患者を鎮静させてしまえば医師や看護士の負担はずっと少なくなるわけだが、このような場合、医師は単に大人しくさせるために薬を処方していると言わない。
あくまでも治療のために処方したと主張するのが常であるが、実際その投薬が適切であるかどうかは素人である患者や家族に判断するのは難しいだろう。
自殺や他害の恐れがあるときに薬によってそのリスクを低くさせることは当然のように思えるが、副作用による突然死のリスクも考慮すれば、「薬に副作用があるのは当然」では済まされない難しい問題であるといえる。

理由2については蝋屈症とアキネジア、薬による鎮静と精神病による感情の平板化や極端な鬱状態など区別が難しいものが存在するため、余程、経験を積んだ医師でないと完全な診断は難しいと考えられる。
抗精神病薬によって起きる認知障害はNIDS(neuroleptic induced deficit syndrome) と呼ばれている。

理由3については精神医療に限ったことではないし、すべての医師がそうだとは言わないが、たくさん薬を処方すれば利益が出るという事情は過剰な投薬の原因となり得るだろう。

突然死/隔離室症候群

精神病院では、患者が極端な興奮を示した場合や自傷の恐れがあるときに身体を拘束したり、隔離室に入れて保護することがあるが、この時に少なからず心停止による突然死が起こることが知られていて、いわゆるエコノミー症候群に類似した現象と考えられる。
身体拘束における突然死のリスクを高める要素として以下のものが指摘できる。

1極端な興奮のためにおきる脱水。
2身体拘束による欠陥の損傷。
3身体拘束や過鎮静による血流の停滞。
4三環系抗精神病薬の副作用による肥満、高脂血症、糖尿病。

これら以外にも抗精神病薬の副作用によって起きる不整脈も原因の一端を担っていると考えられる。
クロルプロマジン換算量1001mgから2000mgではQT延長が起きるオッズ比は5.4にまで高まる(参考文献1 )。
尚、隔離室症候群は長嶺 敬彦博士の命名による用語。

口に表れる副作用/口渇

抗精神病薬の副作用によって口の渇きが起きることがある。
これは薬の副作用のために神経伝達物質のアセチルコリンの働きが阻害されることが原因とされる(抗コリン作用)。
極端な場合は口の渇きから大量に水を飲み水中毒に陥ることもある。

抗精神病薬の副作用である抗コリン作用によって便秘の症状が表れることは珍しくない。
特に重篤な場合はイレウス、腹膜炎、バクテリアル・トランスロケーションなどを併発することもある。
バクテリアル・トランスロケーションとは腸内の細菌が何らかの原因で腸以外の臓器へ侵入し、毒素を発する症状である。

定型抗精神病薬ではクロルプロマジンとレボメプロマジン、非定型抗精神病薬ではクロザピンとオランザピン(ジプレキサ)が食欲亢進を引き起こすため体重増加の副作用が表れる。
クロザピンとオランザピンはヒスタミンH1受容体への拮抗作用によって体重増加が起きるとされる。
その他、食欲亢進の原因として5-HT2Aや5-HT2cとの拮抗作用が関連しているとする説がある。

副作用と体重減少

抗精神病薬の副作用としては体重増加のほうが多いが、稀に痩せの症状も見られる。
抗精神病薬の副作用である手の振るえなどを抑えるために使われる抗パーキンソン薬の影響や抗精神病薬の副作用が複合的に影響しあって体重の減少を引き起こすと考えられる。

ドーパミンD2受容体に作用する定型抗精神病薬の服用によって錐体外路症状の副作用が表れる。
抗精神病薬は中脳辺縁系のドーパミン受容体を適度に遮断することがもともとの狙いであるが、必ず中脳辺縁系のドーパミン受容体だけを遮断できるとは限らず、黒質線条体系におけるドーパミン受容体も遮断されてしまった場合には錐体外路症状が起きる。
Kapurの研究によれば黒質線条体におけるドーパミンD2受容体遮断が78%を超えると錐体外路症状が表れるとしている(参考文献1。)
錐体外路症状は以下の4つに大別される。

1アキネジア(無動症、麻痺が無いのに動きが緩慢になる)。
2アカシジア(動いていたいという欲求が強く、じっとしていられない)。
3ジストニア(身体の捻転、ピサ症候群)。
4遅発性ジスキネジア(指を動かす、口の筋肉の痙攣などの不随意運動)。

抗精神病薬の副作用のために起きる錐体外路症状や「ふらつき」は、患者の転倒によって怪我をするリスクを高めてしまう。 抗精神病薬によってアドレナリンα1受容体が遮断されると立ちくらみが起き、ヒスタミンH1受容体が遮断されると過鎮静のためにふらつきを起こす。
長期間入院している患者の場合は高齢による体力の衰えや、入院生活から起きる運動不足などのために骨折や脱臼の重症に至る場合もある。

(このページの参考文献1)

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